「キャラバンフリート」 P.N あす ひろし

 


- 1 -

 砂を蹴散らし、あたりに砂埃を巻き上げながら、鋼の装甲で覆われた船が快走する。大地を走る船、サンドシップだ。あたりは一面の砂漠で、他に視野に飛びこんで来るものはなにもない。照りつける太陽と、熱く焼けついた砂が、それが世界の全てだ。

 その中を、二隻のサンドシップが追いつ、追われつしていた。逃げるのは輸送船らしき鈍重そうな船。追うのは二連装の砲を載せた、武装船だ。
 詰まりつつあった二隻の距離が多少、開いたかと思うと、追う武装船の砲門が火を噴く。と、逃げる輸送船の左側に着弾した。

 轟音とともに多量の砂がまき散らされ、砂柱が立ち上る。砂はそのまま輸送船の甲板に流れこむ。
 その様子を見ながら、輸送船の船橋で二人の男女が言い争っていた。
「馬鹿! 距離をあけたら、砲弾の餌食になっちゃうじゃない」
「でも、あれは脅しだろ。一発もあたっちゃいないぜ」
「だから、アンタはまだ半人前なのよ、アドル」

 半人前と呼ばれたアドルは、舵輪を握ったままそっぽを向いて返事も返さない。言い返す言葉もなかったが、くやしさだけは収まらず、それを態度で示したのだ。
 並以上の身長に、筋肉で締まった体。あどけなさを残していたが、その瞳には強い意志の光が宿っていた。大人と呼ぶには幼く、少年と呼ぶには大きすぎる、アドルは十八才という微妙な年齢であった。

「逃げきれりゃ、文句ねえだろ。
 ルクア。俺は操舵に忙しいんだ。黙っててくれ」
 アドルはいいつつ、手元のバルブをゆるめると、船がじょじょに速度を上げていく。

「この船の速度で逃げ切れると思ってるの。輸送船で、しかもわたしが生まれた頃に作られた旧式よ。
 それに脅しでも、向こうの腕前が悪かったらどうするの。こんな装甲の薄い船、当たっちゃったら一発でおしまいなのよ!」

 今度は船の右側に轟音、そして巨大な砂柱が立ち上る。ゆっくりと盛り上がり、そして崩れた砂の柱はそのまま、アドルらの船の甲板を洗う。
 船橋にも土砂は流れ込む。アドルは舵輪にしがみついて、なんとか砂をしのいだが、ルクアは砂の流れに足を取られて、そのまま尻餅をつく。日に焼けた健康的な褐色の肌も、短く刈り込まれた金髪も、何もかもが砂まみれになっていた。

「さっきから、言ってるでしょ――」
 口の中の砂を吐き捨ててルチアは言葉を継ぐ。
「距離を取ると砲撃されるって」
「じゃあ、俺にどうしろって言うんだ?」
 アドルは非難がましくルクアを見た。

つづく・・・・

[PR]動画